「今日泊まってもいい?」 強風に煽られ天気は大荒れ。 官兵衛は小さく、だがわざとらしく溜息をついた。 流石に官兵衛もこの天気の中帰れとは言わないが、聞くだけ無粋というもの。 「今更聞かずとも、準備は万端のようだが?」 「親しき仲にも礼儀有、だよ」 返答を聞く前に半兵衛がごろりと床に転がった。 半兵衛は寒い日が好きだ。 厳密に言えば寒い日は好きではないが寒い日の朝が好きだ。 「官兵衛殿、寒くて起きられない」 いつもは直ぐに布団から抜け出る官兵衛が、少しねだるだけでいつもより長く、布団の中に居てくれる。 ただそれだけで幸せな朝を迎えられる。だから、好きだ。 「だって、めんどうじゃない?」 そう言えばきっといつも通り呆れてくれる。呆れながらも限界迄頑張って、頑張って、そうしてやっと限界を伝えるんだ。 だから俺も限界迄頑張ってみるよ。 「半兵衛」 その重圧掛った声に、降ろしてと官兵衛殿の肩を叩く。 落ち着いた呼吸の代わりに、心臓が鳴っていた。 「おやすみ、官兵衛殿」 そう言い放ち、くるりと背を向けて寝た振りをした。 背を向けることなどしたくはないが、これは一種の実験だ。 早く振り向きたい衝動を抑え、頭の中で数秒、時を数えてから振り返る。 そこには何処か困惑したような表情の官兵衛がこちらを向いて居て、溜まらずその身を抱きしめた。 「半兵衛、慎め」 その声に半兵衛は唇目前迄近づけた手を止めた。 しかし食は抑えられず、手中の干し芋へとかぶりつく。 その拍子に口周りへと付着する白い粉を見て官兵衛は訝し気な表情を浮かべた。 「官兵衛殿拭いて〜」 これみよがしに突き出される唇に、黙って雑巾をくれてやったのはせめてもの優しさだ 100612 |