「今日は嘘をついても良い日なんだって」 「くだらん、誰が然様なことを決めたと言うのだ」 ぽつりと漏らすようにして告げる半兵衛の言葉を、いとも容易くバサリと斬り落とす官兵衛。相変わらず真顔のままの官兵衛には通じない冗談だと言うこともわかってはいるのだが、それでも今日と言う日はなんだか浮かれてしまう。 「さぁね〜。でも、楽しそうな日じゃない?」 「嘘をついても良い、等と許可を貰わずとも嘘をつく者はつく」 「……そう、なんだけど。そうじゃなくてさ〜官兵衛殿はもう少しこういう行事、楽しむべきだと思うよ」 頭の固い官兵衛にどんな助言をした所で、官兵衛が是と思わねば変える筈がない。そうわかっていても言ってしまうのは、半兵衛のおせっかいなのかもしれない。だが、時には官兵衛とてそれを有難く思う日がある。 「半兵衛よ」 「なにさ」 「すきだ」 「あー、もう!本当可愛くない!!」 顔色一つ変えずそう告げれば、瞬時に顔を赤らめると共に悔しそうな表情をし、官兵衛の胸元へと顔を隠すようにして身を委ねる半兵衛。説教をされると思っている時に返される絶妙な切り返しに翻弄される。 そんな時の半兵衛の顔が、官兵衛は好きなのだ。 「今日は嘘をついても良い日らしいから、官兵衛殿は代わりにたまには素直になったら?」 「私がいつ嘘をついたと言うのだ」 そのように思われていた等不服だ、とばかりに官兵衛の声音が一つ、沈んだ音を見せると半兵衛が悪戯気な笑みを浮かべて官兵衛の前に立ちはだかる。こういう時の半兵衛は、官兵衛で遊ぶ算段をしている時だ。官兵衛はしまった、とばかりに視線を反らすが時既に遅し、半兵衛に服裾を掴まれた時点で逃げ道を失った。 「じゃあ聞くけど、ちゃんと本音で答えてよね。第一問、官兵衛殿の好きな人は?」 「居ない」 「第二問、官兵衛殿が天下を取って欲しい人は?」 「天下を治められるのであれば誰でも良い」 「第三問、官兵衛殿のことを好きな人は?」 「………」 「だぁれ?」 「物好きな阿呆だ」 「その物好きな阿呆、の名前は?」 じりじりと詰め寄り、唇と唇が触れ合いそうになるまで近く詰め寄られると官兵衛はその間に手を挟み口付を拒んだ。それから浅く息を吐き舌打ち混じりに皮肉を漏らす。 「趣味と性格が悪い、竹中半兵衛という男だ」 「んー、初めての正解!…と言いたい所だけど惜しいな。俺、趣味は悪くないんだよ」 そういうと遮られた官兵衛の掌へとそっと口づけ、一度だけ噛みついた。 100612 |